k-takahashi's blog

個人雑記用

スーパーアース 〜スーパーアースは遍在する

スーパーアース (PHPサイエンス・ワールド新書)

スーパーアース (PHPサイエンス・ワールド新書)

スーパーアースとは

巨大ガス惑星より一桁以上も質量が小さく、個体を主成分としていると考えられるが、地球よりは重い、新種の惑星達だった。巨大ガス惑星よりも遙かに多数存在し、そして巨大ガス惑星に優るとも劣らない多彩な姿を持った惑星達だ。それらは、「スーパーアース」と呼ばれるようになった。(p.15)

というもの。

一番乗り争いの第一幕(1940年代から1995年まで)、ホット・ジュピターやエキセントリック・ジュピターといった異形の惑星がドップラー法で次々発見されていった第二幕(1995年〜2005年)、2006年くらいからのトランジット法が台頭してきた第三幕、そして2008年くらいからの地球型惑星(スーパーアース)の発見ラッシュの第四幕に分けられるかもしれない。(p.16)

まさに、この2,3年に盛り上がってきた話題である。例のグリーゼ581の話も当然出てくる。


「見つかった!」 「なら、他にもあるんじゃ?」 「あった!」 「他の方法でもいけるんじゃ?」 「いけた!」 「よし、観測方法を改善しよう!」 「過去のデータをこうやって処理すれば見つかるんじゃ?」 「やった!」という天文学者達が嬉々として(あるいは、競争に負けじと歯を食いしばって)観測に取り組んでいる様子が技術的背景と合わせて説明されている。またたくまに観測手段が多様化し、観測精度があがっていく。数年ごとに観測精度が一桁ずつあがっていくあたりは、コンピュータ業界では見慣れたシーンだが天文学でもあるんだな、と思った。


もちろん、そこには「見つけやすいものから見つかる」という問題があって、モデルを考える際には常に注意を払わなくてはならない。

2008年までに測定された惑星はすべて順行だったのに対して、2009年以降の測定では半分以上の惑星が直行していたり逆行していたりしていると報告された。偶然にしてはあまりにおかしい(p.45)

これも観測方法による偏りだったそうだ。


この発見ラッシュによって必要になったのが惑星形成理論の修正である。これに対して、井田教授はこんな風に描いている。

教科書に書けるような完成した理論ができてしまったら、科学者の役割はおしまいで、おもしろくない。一方で、謎がいくら魅力的でも、それがあまりに大きく、どのように手をつけていいのかまったくわからないという状態だと、一部の天才はいいかもしれないが、普通の科学者にとっては、いくらがんばってもなかなか進歩に結びつかず、やりがいがない。系外惑星の場合は、それまでの概念の基本線は使えそうな感じだが、大幅な拡張や変更が必要という状況だ。系外惑星は数々の魅力的な謎を持ちながら、それらに対して、こうかんがえてみたらいいかな、こういう観測もできそうだとか、特別な天才でなくてもあれこれチャレンジできる。プロの卵の大学院生でも世界から注目される発見をしたり画期的な理論を提出できたりする。そしてそれらは生命の謎に繋がっていたりする。科学者にとって、こんな楽しい研究分野はそうそうあるわけではない。(pp.82-83)

本書を読んでいると、ちょくちょく大学院生が顔を出す。一人ならともかく複数の大学院生が顔を出す分野というのは、たしかに活気あるダイナミックな分野なんだろうと思う。
(もっとも、本分野、例の仕分けでは散々叩かれて、予算1/3にされている。)


本書の後半は、そういう途上状態の理論を一般向けに説明している。もちろん「ここはまだ分からない」という部分も多く、逆にそういうのを知っておくとこれから発表される新発見・新理論がより楽しくなるというわけだ。

  • 塵が中心星に落ちて行ってしまう問題
  • 塵どころか、惑星も中心星に落ちて行ってしまう
  • 太陽系のホット・スーパーアースが無い理由は?
  • 塵の量と分布の影響
  • 逆行ホット・スーパーアースは見つかるか?


第4章は地球外生命体の可能性の話。地球外生命の議論としては新味はないが、最近は観測の裏付けが出てきているというところがポイント。存在しうる惑星のタイプがある程度具体的に分かるようになれば、そこに生物が存在しうるか、存在するとしたらどんなタイプかという考えるのはある意味必然ということになる。
グリーゼの惑星が注目されたのは、トランジット観測とドップラー観測の両方が成功していて、軌道、密度、組成が判明しており水の存在が強く示唆されたから。同様に複数観測の組み合わせでハビタブルゾーンにあることが見つかるケースも増えるだろう。
また、酸素の存在やレッド・エッジが観測される可能性も充分高いそうで、それはそれで楽しみ。


ということで、この分野に興味のある人はとっとと読みましょう。これからの観測結果と議論を、より楽しむために。