k-takahashi's blog

個人雑記用

顧客を売り場に直送する 〜個人情報から名前をはぎ取って通貨にする

ウェブ記事などで知られる西田宗千佳氏の最新刊。
ウェアラブル、位置情報、個人情報、ビッグデータ、といったあたりのキーワードを使いつつ、コンシューマ系のサービスや製品の現状と将来について色々語っている。
色々と取材を重ねてきていることが伺え、現状分析も将来予測もなるほどと思うところが多い。きっちりまとめた本というよりは、現状を色々と紹介し、その上で先を考えるネタにするという本になっている。


タイトルから分かる通り、「どうやってマネタイズするのか」というところが常に意識されている。
そこから導き出される「個人情報の通貨化」という言葉は面白い。現実の通貨に名前は書かれていない。いや、名前が書かれていないからこそ流通して使えるのであり、流通して使えるからこそ「通」貨なのである。個人情報もマネタイズに使えるようにするには、名札を外す必要がある、という考え方。
この言葉は面白いし、個人情報を的確にビジネスに活用するためには良いキーワードになると思う。


一方で、「顧客を売り場に直送」するのであれば、それはコンシェルジェ的な振る舞いが求められる。この顧客が「通貨」化されて名札が外れていては直送できなくなってしまう。情報は通貨化されていてもいいが、「今だけ、ここだけ、あなただけ」を対象にするサービスを提供するための宛先は無名化できない。ここは個人情報が必要。この2つは明確に分ける必要がある。


消費者は、通貨化(無名化)した個人情報を使ってサービスや物品を購入する。従来は、購入されたサービスや物品を顧客に届けていたのだが、そうではなくて、顧客を売り場に引っ張ってきて、そこで購入させるようになるだろうというのが本書の指摘。この「引っ張って」の部分をいかにスムーズに行うか、というところがポイントで、そのためには情報が消費者に伝わる部分を押さえる必要がある。
顧客を引っ張るためには、PCよりもスマホのほうが有利で、そして、スマホよりもウェアラブルのほうが有利となる(必要な情報が取りやすい、かつ情報を提供する口になるから)。そして、スマホの2台持ちをする人はある程度いるが、ウェアラブルを2つ付ける人は少ないだろう。なので、場所の取り合いという意味で競争は激化し、かつ一旦その競争に勝てば囲い込み効果も強く働くので非常に有利になると予想される。


最後の部分には、当然フィルターバブル問題が関わってくる。特に、ウェアラブルバイス経由で提供される情報は、下手をすれば選択肢がユーザに見えなくなる。スマホウェアラブルで経由で提示されるデータが、Tポイントが使える店だけとか、アップル社が選んだ店だけとかに偏ったら、それは不健全だろう。
などと思いながら興味深く読めた一冊。書かれている情報は、今が熱いものが多い。その熱さが冷めないうちに読んでしまうのをお薦め。色々なニュースが、今以上に楽しめるようになると思う。(もちろん、仕事で関わる人は読んでおいて当然、という内容)