k-takahashi's blog

個人雑記用

コマンド86号

コマンドマガジン Vol.86(ゲーム付)『モンスの戦い』『空母ガンビア・ベイ』

コマンドマガジン Vol.86(ゲーム付)『モンスの戦い』『空母ガンビア・ベイ』

 付録ゲームはモンスの戦い。すみません、「何だっけ?」と思わず調べてしまいました。1914年8月、第一次大戦における最初の英独間の大規模戦闘です。この直後、9月の上旬が有名なマルヌの戦い。


 ところで、第一次大戦と言えばシュリーフェン・プラン。一般に「小モルトケが改悪したから失敗した」という説があるが、大木毅氏の記事はその俗説を否定するもの。
 まずシュリーフェン神話を誰がいつ広めたのかという点について、第一次大戦後、シュリーフェン学派の軍人達であったことを示す。
 次に、1956年にゲルハルト・リッターという学者が、シュリーフェン・プランは国政情勢の変化の可能性を無視して二正面戦争の勝利という可能性を追求した戦術論に過ぎなかったという論を発表していることを示す。
 小モルトケの果たした役割については、クレヴェルド(「補給線」の著者)が兵站面での改善を指摘していたが、さらにアニカ・モムバウアーが2001年に発表した論文では、研究の結果元々のシュリーフェン・プランが実行不能であることを知った小モルトケが実行可能になるよう修正を加えたとなっているそうだ。
 へえ、と思ったが、クレヴェルドのところまではいいとして、モムバウアー氏の研究ってどのくらい認められているのだろう。


 あとは桂さんの記事の出だしが笑った。

 私どもシミュレーションゲーマーの多くは、Montgomeryという文字を見ればモントゴメリーと読み、北アフリカロンメルと戦った「砂漠の鼠」の親分だと思います。けれども、より多くの人々は、Montgomeryという文字を見ればモンゴメリと読み、「赤毛のアン」を書いた少女小説家だと思います。(p.34)


 内田弘樹氏の架空戦記は最終回。東部戦線の終戦まで。JS-IIとティーガーの戦車戦は意外とあっさり終わってしまった。

野獣げぇまぁ(その10)

 例によって徳岡氏のコラムから面白かったところを抜粋。

3e以降の「D&D」におけるタクティカルな戦闘と「タンホイザー」や「ディセント」といったボードゲームとの間に、どれくらい有意な差があるだろう?
シナリオ侵攻に対してプレイヤーが関与できる範囲がルールで定められていて、プレイヤーに可能なのは気の利いた台詞をTPOをわきまえて発言したり、ルールを駆使して敵を倒すだけなTRPGCo-opスタイルのボードゲームは、どれくらい差があるのだろう?

事実、キャラクターに役割名しかついていない「Pandemic」のキャラクターに具体的な名前を付けると、それだけで一気にRPGっぽくなる。「Red November」も同様で、キャラクターにミハイルだのピョートルだのウラジミールだの名前を付けると、途端にゲームが生き生きとし始める(「ピョートル、火を消すんだ!」「無理です、ウラジミール少尉!」「消せ、おまえならできる、あのクソッたれな火を3分以内に消すんだピョートル!」)

Japandemic

 色々不謹慎なのは承知の上でソロプレイ。冬コミで頒布されていたパンデミックのフェアリーです。コマはPandemicのものを流用。


 折角なので、プレイ最初の蔓延地域は、神戸、大阪、成田(千葉)を選択。あとは普通に設定しました。難易度はエピデミックカード5枚の中級。
 ゲーム開始時。奈良と岡山にも患者が発生しており、関西が危ない。
 1回目のエピデミック発生時。赤の治療薬が完成済み。関西はアウトブレイク連鎖が起きないようになんとか押さえ込んでいる。 この後、黄、青、と薬を完成させていったものの。
 福島、新潟、長野とアウトブレイク連鎖が発生し、黒の患者数が上限を突破して敗北。もう1ターンあれば薬が作れたのですが、「あと1ターンあれば」はパンデミックの負けパターンですから。


 やはり中級は展開が早いというのが一つ。あとは、関西に飛ぶ直行便がないのが辛かった。緊急移動なり、研究所建設なりのスペシャルカードがあればなあ。やはり初動が大事。

イケナイ宇宙学

イケナイ宇宙学―間違いだらけの天文常識

イケナイ宇宙学―間違いだらけの天文常識


 宇宙学というよりは日本語の「地学」が適切。とは言え、「イケナイ地学」じゃ訴求力ゼロだからしかたないか。原題は "Bad Astronomy"だから「天文学」なんだけど、やはりマーケティング的に弱いと言うことでこのタイトルになったとのこと。
なお、「イケナイ宇宙学」とは、「よくある誤解」のこと。空はなぜ青いという話もあれば、アポロ陰謀論もあり。


 「はじめに」で著者は、マスコミのいい加減さを嘆いている。こともあろうに全国ネット(NBC)の話である。スペースシャトルで行われた実験のニュースを伝えた直後のこと。

総合司会者のマット・ロウアーがこの実験を伝え、話が終わるとケイティ・クーリックとブライアン・ガンベルは、その原稿を読むのは大変だったでしょうね、とコメントした。これで三人はどっと笑い、ロウアーは、今話したことを実は理解していないんですよ、と白状した。ここでちょっと考えて欲しい。アメリカを代表するジャーナリスト三人が、なんと自分が科学を知らないことを笑い飛ばしているのだ! もしこれがセルビアのニュースで、セルビアの場所を三人とも知らないことを笑い飛ばしていたら、どれほど違った状況になっていただろう?
 もちろん、私はひどく憤慨した。この出来事が、実は私を「イケナイ宇宙学」の議論の道へと踏み込ませた。数億のアメリカ国民が、最も簡単なたぐいの科学ニュースも理解できない人から情報を得ているのだと知って、行動を起こすことにしたのだ。報道自体は正確だったし、スペースシャトルでしていた実験を熟知する人が書いたのかもしれない。だが大衆は、三人の著名なジャーナリストが「科学を知らなくても大丈夫」と暗黙のうちに語る姿を目にしたのである。(pp.6-7)

日本のマスゴミも大概酷いものだが、海の向こうも同じらしい。


 別の恐ろしい事件も記されている。星の命名権を売りますというサービスを行っている会社がある。もちろん、公式なものではなくこの会社が勝手にやっているだけのことにすぎない。そのことをオハイオ・ウェスリアン大学パーキンズ天文台の副台長ロバート・マーティノはウェブで批判した。
 驚くべきことにこの会社は、大学に圧力をかけ、そして大学はこの圧力に屈してマーティノにサイトの閉鎖を命じたのだそうだ。結局マーティのは情報を別のサイトに移した。
幸いなことにこの情報自体は消されずに残っている(http://www.southwestmsu.edu/campuslife/attractions/planetarium/starnamingfaq/starfaq.html)。またIAUもこの会社の主張に根拠がないことを示す文書を公開している(http://www.iau.org/public_press/themes/buying_star_names/)。
 この会社は今でも営業を続けているようだが、検索したらInternetWatchでもよいしょしているぞ。(http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/wtoday/backno/2002/0314/index.htm) 困ったもんだ。


 普通に科学知識として面白いものも多い。


 深い井戸の底からなら昼間でも星が見えるという話がある。私も可能だろうと思っていたのだが、これは事実に反するのだそうだ。空の明るさと人間の目のコントラスト知覚力をもとに計算したところ、下限はシリウスの明るさの5倍になる。一方で全天を見るのではなく視界を遮れば、この10分の1の明るさまで知覚可能になる。この条件を満たす星は全天に6つ。水星、金星、火星、木星シリウスカノープス。さすがにここまで限定してしまうと「昼間でも星が見える」とは言い難いということになる。
 実は、これを実際に試した天文学者がいる。オハイオ大学のハイネク教授*1である。廃屋の煙突からベガが見通せることを計算で知った教授は講座の学生達と一緒に観測に出かけ、見えなかったという報告をしている。


 日食を肉眼で見ると目に永久的な害が出ることはよく知られている。ところが、「普段の太陽を肉眼で見ても、永久的な害は出ない」のである。人間の目の防衛機能は、太陽を見ると瞳孔が収縮し、網膜の損傷を防ぐのである。もちろん、この能力には個人差があり、被害を受けてしまう人もいる。だが、多くの人は大丈夫なのだ。
 考えてみれば当然で、地球上で暮らす人間の目の防衛機能が、最大の脅威である太陽に対抗できるというのは理にかなっている。
 ところが日食は特殊なのだ。日食の場合、太陽からの光の総量は小さくなるため瞳孔の収縮が間に合わず、太陽の見えている部分が発する光が網膜を損傷させてしまうのだ。


 流星が光る仕組みも面白い話だった。
 塵が大気圏に突入してそれが光る。これはよい。
 しかし、「流星物質が空気との摩擦で熱せられる」というのは間違い。流星物質が大気に突入すると、物質の前方に圧縮されて高温になった大気が留まるのである。この高温の空気はゆっくりと動く空気のスポットとなって流星物質に接触し、その熱が流星物質を溶かし、溶けた部分が吹き飛ばされていく。
 隕石となって地上に落ちてくる場合は、高温部分が上記の仕組みにより吹き飛ばされ、速度が低下してから上空の冷たい大気の部分を通過してくるため外部は冷やされる。加えて、もともと隕石の内部は宇宙空間で冷え切っている。 結局、地上に落ちた隕石は大抵の場合冷え切っていて、発見される頃には霜が付いていることがほとんど。
(もちろん、巨大隕石は話が別。)


 バスタブの渦の向き、季節ができる理由、潮汐についての誤解、月の錯視、星がきらめく本当の理由、など面白い話題がてんこ盛り。天文好きならお薦めです。

*1:UFOファンならおなじみの、あのアレン・ハイネック! もちろん、この報告は真っ当なもの。